1-8.馬場適性と押す動き・引く動き
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こんな私も馬場適性にはちょっと興味あるよ。
おっ。
馬場適性が重要というのは競馬をやったことがある人にはわかってもらえるでしょう。芝では時計が出る軽い馬場、時計がかかる重い馬場が、ダートでは時計がかかる乾いた馬場、時計が出る濡れた馬場があり、それぞれ得意とする馬、苦手とする馬がいます。
ちまたではいろいろな説が囁かれていますが、実はこのような馬場適性は肢の動かし方の違いによって生まれます。
よくパワーと言われているがそれは違う。パワーというよりテクニックというか、まあテクニックって言い方も少し違うんだがな。
肢の動かし方の違いでしょ。
どういった肢の動かし方をする馬がどういった馬場を得意とするのか、見ていきましょう。

押す動きと引く動き
引き戻しの動きは、肢を伸ばして地面を押す動きと、肢全体を後方に引く動きに分解できます。

へー、よくわからないけどそうなの?
これはもう、そういうものだと思うしかない。人間の脚の動きだって押す動きと引く動きに分けられるんだぞ。
ふーん、意識したことなかった。
馬も同じで馬自身は肢の動かし方なんて意識しないからな。だからテクニックっていう言い方も違う。
押す動き・引く動きのどちらがどれだけ強いかという比率は、馬によって違ってきます。押す動きの比率が高い馬もいれば、引く動きの比率が高い馬もいるのです。この違いが馬場適性の違いに表れます。
馬場の方に注目してみましょう。馬場も状態によって、押す動きの比率が高いと効率よく地面に力を加えられる馬場、引く動きの比率が高いと効率よく地面に力を加えられる馬場、というように変化していきます。
肢の動かし方と馬場の組み合わせによって、地面に加えられる力=推進力が変化する、これが馬場適性なのです。
[押す動きの比率が高い馬]は[押す動きの比率が高いと効率よく地面に力を加えられる馬場]の上だと推進力が強まるが、[引く動きの比率が高いと効率よく地面に力を加えられる馬場]の上だと推進力は弱まる。
逆に[引く動きの比率が高い馬]は[押す動きの比率が高いと効率よく地面に力を加えられる馬場]の上だと推進力が弱まるが、[引く動きの比率が高いと効率よく地面に力を加えられる馬場]の上だと推進力は強まる。
ちなみに、押す動きと引く動きの比率ってどうやったら見分けられるの?
よく見れば押す動き・引く動きは見分けられるようになる。
そればっかだね。
まあいくつかヒントがあるから最後まで読んでみるといい。
まずはどういう馬場が、押す動きの比率が高いと効率よく地面に力を加えられる馬場、もしくは引く動きの比率が高いと効率よく地面に力を加えられる馬場なのか、見ていきましょう。

芝の馬場適性
軽くて速い時計が出る芝の馬場は、押す動きの比率が高いと効率よく地面に力を加えられる馬場です。押す動きの比率が高い馬が得意とし、引く動きの比率が高い馬は苦手とします。
軽い芝は押す動きね。
重くて時計のかかる芝の馬場は、引く動きの比率が高いと効率よく地面に力を加えられる馬場です。引く動きの比率の高い馬が得意とし、押す動きの比率の高い馬は苦手とします。
重い芝は引く動きね。


ダートの馬場適性
乾いたダートの馬場では、馬は上層路盤に着地してから地面に力を加えます。この上層路盤は押す動きの比率が高いほど効率がよくなるわけでも、引く動きの比率が高いほど効率がよくなるわけでもなく、偏りのない中間の層と言っていいでしょう。
乾いたダートはどちらでもない中間ね。
ダートの馬場は濡れていくほど、クッション砂の層でも肢から地面に力を加えられるようになります。そしてクッション砂の層は引く動きの比率が高いと効率よく地面に力を加えられる層です。
つまり、ダートの馬場は濡れるほど、引く動きの比率が高いと効率よく地面に力を加えられる馬場になるということです。
濡れるほど引く動きね。

前のページで説明した「ダートの馬場は濡れていくほど、ダート適性(=上層路盤への早い着地ができるか)のない馬でも走れるようになる」というのも忘れずにな。
ちゃんと覚えてるよ。

押す動き・引く動きに関わる筋肉(後躯)
ここからは、どういう馬が押す動き、もしくは引く動きが強くなるのかを見ていきます。
結論から言うと、押す動き・引く動きの比率は、押す動きをつくる筋肉の量・引く動きをつくる筋肉の量の比率で決まります。押す動きの筋肉量が多いほど押す動きの比率が高くなり、引く動きの筋肉量が多いほど引く動きの比率が高くなるのです。
まずは後躯の筋肉から見ていきましょう。少し前に振り出す筋肉と引き戻す筋肉の説明をしましたが(→1-6.スタンス期中の負重時期 )、振り出す筋肉と引き戻す筋肉それぞれに、押す動きをつくる筋肉・引く動きをつくる筋肉が存在します。計4種類あります。
1.振り出す&押す動きをつくる筋肉
2.振り出す&引く動きをつくる筋肉
3.引き戻す&押す動きをつくる筋肉
4.引き戻す&引く動きをつくる筋肉
なんか難しそう。
1.振り出す&押す動きをつくる筋肉
股関節・膝関節・飛節を曲げて後肢を振り出す筋肉です。
引き戻し期前半の押す動き(=引き戻し期前半に股関節・膝関節・飛節を伸ばす動き)の強さに影響します。

振り出す筋肉は引き戻し期前半(スタンス期前半)、引き戻す筋肉は引き戻し期後半(スタンス期後半)の力強さに影響するんだったな。
振り出す筋肉だから引き戻し期前半(スタンス期前半)の押す動きの強さに影響するってことか。
2.振り出す&引く動きをつくる筋肉
腰仙関節・股関節を曲げて後肢を振り出す筋肉です。
引き戻し期前半の引く動き(=引き戻し期前半に腰仙関節・股関節を伸ばす動き)の強さに影響します。

3.引き戻す&押す動きをつくる筋肉
股関節・膝関節・飛節を伸ばして後肢を引き戻す筋肉です。
引き戻し期後半の押す動き(=引き戻し期後半に股関節・膝関節・飛節を伸ばす動き)の強さに影響します。

4.引き戻す&引く動きをつくる筋肉
腰仙関節・股関節を伸ばして後肢を引き戻す筋肉です。
引き戻し期後半の引く動き(=引き戻し期後半に腰仙関節・股関節を伸ばす動き)の強さに影響します。

押す動き・引く動きを○○関節が伸びる動きに置き換えると少しはわかりやすくなるかもな。
うーん。

押す動き・引く動きに関わる筋肉(前躯)
前躯も振り出す筋肉と引き戻す筋肉それぞれに、押す動きをつくる筋肉・引く動きをつくる筋肉が存在します。計4種類です。
1.振り出す&押す動きをつくる筋肉
肩関節・肘関節を曲げて前肢を振り出す筋肉です。
引き戻し期前半の押す動き(=引き戻し期前半に肩関節・肘関節を伸ばす動き)の強さに影響します。

2.振り出す&引く動きをつくる筋肉
前肢全体を前方に振り出す筋肉です。
引き戻し期前半の引く動き(=引き戻し期前半に前肢全体を後方に引く動き)の強さに影響します。

3.引き戻す&押す動きをつくる筋肉
肩関節・肘関節を伸ばして前肢を引き戻す筋肉です。
引き戻し期後半の押す動き(=引き戻し期後半に肩関節・肘関節を伸ばす動き)の強さに影響します。

4.引き戻す&引く動きをつくる筋肉
前肢全体を後方に引き戻す筋肉です。
引き戻し期後半の引く動き(=引き戻し期後半に前肢全体を後方に引く動き)の強さに影響します。

押す動き・引く動きを実際の動きに置き換えるとわかりやすくなる。もうだんだんわかってきただろ?
うーん。

押す動き・引く動きの比率と骨格の形
押す動き・引く動きの比率は、押す動きをつくる筋肉の量・引く動きをつくる筋肉の量の比率で決まると言いましたが、少し間違いがあります。
スタンス期中の負重時期(→1-6.スタンス期中の負重時期 )と同じように骨格の形が関わってくるのです。
スタンス期のより早い時期に負重するような骨格の形だと、引き戻し期前半の押す動き・引く動きの比率がより重要になり、より遅い時期に負重するような骨格の形だと、引き戻し期後半の押す動き・引く動きの比率がより重要になります。
ん?
例えば振り出す筋肉と引き戻す筋肉の量には偏りがないけど、振り出す筋肉は押す動きをつくる筋肉量が多く、引き戻す筋肉は引く動きをつくる筋肉量が多い場合。まあ結構こういうケースは多いんだが。
えーっと待って。整理するね。スタンス期前半は押す動きが強くて、スタンス期後半は引く動きが強い場合ってことか。
そこで骨格がスタンス期のより早い時期に負重するような形だと、押す動きの比率が高くなるし、骨格がより遅い時期に負重するような形だと引く動きの比率が高くなる。
スタンス期前半の負重が強くなれば押す動きが強くなって、スタンス期後半の負重が強くなれば引く動きが強くなるってことか。
まあ、上で紹介した4つの筋肉量の比率+骨格の形で決まってくるわけだが、重要なのはトータルでの押す動き・引く動きの比率であることに変わりはない。
ちなみに押す動き・引く動きの比率は、前躯+後躯のトータルで見る。後躯が押す動きで前躯が引く動きみたいな、前躯と後躯が違う馬は結構いるからな。面倒くさいが合計して考えなくちゃいけない。
はい。

スタンス期中の負重の仕方の違い
これは何なの? ちょっと何言ってるかわからないんだけど。
読めば多少わかると思うが、別に読まなくてもなんら支障はないからそこは任せる。ちょっと専門的すぎる内容だからな。
うんまあ一応聞いてみるよ。
地面に加える力ですが、これは「後ろ方向の力」と「下方向の力」の2つに分けることができます。地面から馬体に加わる力の場合は、その反対の「前方向の力」と「上方向の力」になります。
この「前方向の力」と「上方向の力」の強弱が、押す動き・引く動きの比率の違いによって、スタンス期中に変化します。

力というのは分けることができる。例えばビンタ。
例えばビンタ…。
ビンタの力というのは顔に向かっていく縦方向の力と、顔をこする横方向の力に分けることができる。何となくイメージできるだろ。

そして馬体、ビンタで言えば手に加わる反対方向の力も、縦方向と横方向の2つに分けることができる。あんな女優もこんな俳優も、縦方向と横方向の力を加えていたし、縦方向と横方向の力を受けていたということだ。
力に置き換えると気色悪いね。
・スタンス期前半
まずはスタンス期前半を見てみましょう。言葉だけではわかりづらいと思うので表にしてみました。前肢も後肢も同じようになります。

押す動きの比率が高いほど、(押す動き・引く動きの比率に偏りがない場合と比べて)スタンス期前半のさらに前半では前方向の力が強くなり、上方向の力は弱くなります。そしてスタンス期前半の後半では前方向の力が弱くなり、上方向の力が強くなります。
引く動きの比率が高いとその逆で、スタンス期前半のさらに前半では前方向の力は弱くなり、上方向の力が強くなります。そしてスタンス期前半の後半では前方向の力が強くなり、上方向の力は弱くなります。
スタンス期前半は振り出す筋肉の影響だったな。スタンス期前半の押す動きの比率が高いということは、振り出す筋肉の中で[押す動きをつくる筋肉の量>引く動きをつくる筋肉の量]ということだ。
うん。
逆にスタンス期前半の引く動きの比率が高いということは、振り出す筋肉の中で[押す動きをつくる筋肉の量<引く動きをつくる筋肉の量]ってことだな。
・スタンス期後半
スタンス期後半はこんな感じです。前肢も後肢も同じようになります。

押す動きの比率が高いほど、スタンス期後半の前半は前方向の力が弱くなり、上方向の力が強くなります。そしてスタンス期後半の後半は前方向の力が強くなり、上方向の力が弱くなります。
引く動きの比率が高いとその逆で、スタンス期後半の後半は前方向の力が強くなり、上方向の力が弱くなります。そしてスタンス期後半の後半は前方向の力が弱くなり、上方向の力が強くなります。
スタンス期後半は引き戻す筋肉の影響だったな。説明はもういいか?
うん。
細かいことは無視して単純に考えるとこうなります。
押す動きの比率が高い馬は「スタンス期の中間は上方向の力が強くなり、スタンス期の最初と最後は前方向の力が強くなる。」
引く動きの比率が高い馬は「スタンス期の中間は前方向の力が強くなり、スタンス期の最初と最後は上方向の力が強くなる。」

さっき言ってた、押す動きと引く動きの見分け方のヒントってこれのこと?
まあこっちは押す動きと引く動きの見分け方というより、どうして軽い芝は押す動きの比率が高いと効率よく地面に力を加えられる馬場なのかとか、そうした解析をするときのヒントだな。
そうですね。実際どうだかよくわかっていませんが、このスタンス期中の負重の仕方が原因なのはほぼ確実です。(摩擦とか地面の脆さとかそういう馬場の力学的特性が関係してるんじゃないかと思ってます。)

土ダート適性
アメリカやドバイなどのダート(土ダート)に挑戦する馬が近年結構いますので、簡単にですが説明したいと思います。
アメリカやドバイのダートを土ダートというのに対して、日本のダートは砂ダートと言う。ここまでダート、ダートと言ってきたのは日本のダート=砂ダートだったな。
土ダートですが、その性質は砂ダートと軽い芝を足して2で割ったような性質になります。
砂ダートほどではないですが、硬いバネ要素・スタンス期のより早い時期への負重・馬体重、これらがある方が有利になります。
(極端な硬いバネ要素・スタンス期のより早い時期への負重は、逆に不利になります。)
そして軽い芝ほどではないですが、押す動きの比率が高いと効率よく地面に力を加えられる馬場になります。軽い芝と乾いた砂ダートの中間くらいなので、乾いた砂ダートよりは押す動きの比率が高いと効率よく地面に力を加えられる馬場です。
また、土ダートは濡れるほど、引く動きの比率が高いと効率よく地面に力を加えられる馬場になっていきます。
硬いバネ要素・スタンス期のより早い時期への負重・馬体重の有利さは、砂ダートのように変わることはないと考えてます(が、研究不足で実際はよくわかってないです)。

レース編もここで一区切り
さて、レース編も内容的にはここで一区切りになる。~の見分け方みたいな相馬眼の習得は後回しで構わないぞ。理論がわかっていれば100点だ。大丈夫そうか?
私は70点くらいかな。(途中半分聞いてないところあったからなあ。あとちょっと整理しないといけないかも。)
なら大丈夫そうだな。
えっ、大丈夫なの?
ここまでの内容を復習するもよし。先に進むのもよしだ。
ちなみに次からは少し毛色が変わって、肢の動きから離れることになる。
おー。